◆本の概要◆
 漫才コンビ南海キャンディーズ・山里亮太の小説初挑戦作品にして、16人の女優、アイドルをモデルに綴る短編妄想小説集。元々は雑誌「B.L.T」に連載されていたものの中から16編を厳選し、加筆修正して一冊の本にした。

◆著者情報◆
名      前:山里 亮太(やまさと りょうた)通称・山ちゃん
コンビ名:南海キャンディーズ(2003年結成)
相      方:山崎 静代(やまざきしずよ) 通称・しずちゃん
デビュー:2000年
 2004年のM-1グランプリ準優勝をきっかけに大ブレイクした、南海キャンディーズのツッコミ担当。かつては「アイドルオタク」「気持ち悪い」「ブサイク」「炎上芸人」などと言われていたが、現在は確かなお笑いの実力でバラエティ番組のMCの他、ロケから声の仕事まで幅広く活躍中。2019年6月には女優の蒼井優と結婚。

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 こんにちは。黒飴かりんとうです。
 今回の感想文は「あのコの夢を見たんです。 著:山里亮太」です。

 著者の山里さんとオードリー・若林さんが親友である事は一部のお笑い好きの間では周知の事ですが、そんなお二人の冠番組番組に「たりないふたり」があります。
 その番組の企画中の一つに、「プライベートで全く恋愛してない二人が、普段女性芸能人をヒロインにしてやっている恋愛妄想を、ステージ上で一人で演じる」という、ちょうどこの本と似たようなテーマのものがありました。
 この企画は「実際には全然恋愛してないおじさん達が、綺麗な芸能人相手に恋愛妄想を楽しんでいる不毛さや寂しさを伴うおかしさ」を笑うのがストレートな見方だと思うのですが、やはりお二人ともコンビのネタを書いている方だからなのかストーリーがしっかりしていたので、私は普通にお話としても楽しんでいました。
 特にその妄想内容にお二人のキャラクターが出ているのが興味深く、

   若林さん→小説や単館上映の映画の様な雰囲気の、文学っぽい妄想
   山里さん→ジャンプのラブコメ漫画とかラノベみたいな、本当に少年が妄想しているようなピュアで明るい恋愛妄想

 …と言った感じで、実は私はその時から、若林さんのファンでありながらこと恋愛妄想の内容に関していえば山里さんの方が好きでした。私も普段から本よりはマンガが好きですし、大学時代までほぼ少年ジャンプで育ったので、山里さんの妄想の方が馴染み深い感じがしまして。

 そんな訳で、この本が発売されたことを知った時、女優さんやアイドルの方をモデルに綴った妄想小説と知って「絶対面白いじゃん!」と思って、買って読んでみたのですが、実際には「たりふた」の企画で感じた山里味もありつつ、全く違った面白さも多々あり…。

 一体どんな意外性が…!?と思った方は、どうぞこの先の感想文もお読みください。
 多少ネタバレしておりますのでご了承の上、大丈夫だよ~という方はどうぞ先にお進みください。
 PCにてご覧の方は「続きを読む」からどうぞ。

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◆感想◆
・モデルにした女性の魅力とお話の面白さを大切にした、バリエーション豊かな短編集。
 まず私は「女優・アイドルをモデルに綴る妄想」という本の紹介文と、事前に見ていた「たりないふたり」の企画内容の影響で、この本は「山里さんを主人公にした恋愛妄想小説が16篇入っている」ものだと思っていました。そして恐らく、何の前情報も無く読み始める人のほとんどは私と同じ様な先入観を持つと思います。
 しかし結論から言って、その様なイメージは間違っていました。

 では具体的にはどのような点が予想と違ったのかという話なのですが、まずこの本に収録されている16編の小説の中で、山里さんが主人公である事はそう多くありません。むしろ大抵の場合は脇役であったり、そもそも山里さんが出てくることすらない話も沢山あります。
 そして内容も、恋愛要素が薄かったり無かったりするお話も多く、明確に恋愛が主題になっているお話の方が少ない位でした。更には舞台設定も様々で私が思っていたよりずっとお話のバリエーションが豊かでした。


 その中でも特に私の印象に残っているのが、元・欅坂46の平手友梨奈さんをヒロインにした「天使の刃」というお話です。なぜなら、この「天使の刃」は、おそらくこの本を読む多くの人が「えっ!この本思ってたのと違う!」と、印象を一変させる最初のお話だと思うからです。

 こちらのお話、掲載順序で言うと3本目に収録されているのですが、その前の2本は現代が舞台の比較的普通の恋愛小説でした。
 それを踏まえて、粗筋は以下の様になっております。

舞台は20××年の日本。時の首相により「カワイイ廃絶法」という法律が制定され、その名の通り「カワイイ」は全面的に禁止となる。日本のありとあらゆるカワイイ「もの」や「人」は全て取り締まりの対象として軍に狩られるようになり、カワイイ「もの」が無くなるのはもちろんの事、男女問わずカワイイ「服装」をするのも、更にはカワイイ「仕草」をすることすら禁止。カワイイ人は軍によって強制手的にカワイくない見た目にされてしまい、もっと悪ければ監獄に収容されてしまう。人々が軍の理不尽なカワイイ狩りから逃げ惑う中、そんな軍の横暴に反旗を翻すレジスタンス的な集団もいくつか存在していた。その中の一つであるK46師団を率いてる人物こそ、今作のヒロイン平手友梨奈である。


 …どうでしょう皆さん。この、前の2本の現代物小説からの、「ディストピアな、ちょいミリタリーアクション物?」への急な方向転換は。この時点で、だいぶ予想外ではないでしょうか?私は導入で舞台設定を把握した時点で「おやっ?」となりました。
 それでも最初の時点ではまだ「なるほどな~こういうパターンもあるのね。でも、少し世界観は変わったものの、おそらく途中で山ちゃんが平手ちゃんを助ける役とか、もしくは助けられる一般市民かなんかの役で出てきて、共闘する中でお互い愛が芽生えたりするんだろな~。」と思っていました。
 しかし、いくら読めども山里さんどころか男のキャラが現れる事すらありません。ひたすら平手さんとゲスト出演している長濱ねるさんの友情や、軍と戦う中での葛藤が描かれるばかりで、一向に恋愛が始まる様子はありませんでした。そして、ついぞ恋物語など始まらぬまま、お話は終わってしまったのです。

 そう、このお話は、平手友梨奈さんを主人公として、一人の勇敢な少女が軍に抗うべくたり上がる様子を描いただけのお話なのです。

 私はこの、前2本の「普通の現代恋愛物」からの急なテイストの変化にまんまと意表を突かれ、読み終わった瞬間「あれ!?終わったんだけど!?」と驚いたと同時に、心の底で山里さんを見くびっていた事に気付き、それを恥じました。

 確かに「妄想小説」としか書いてないから、恋愛ものじゃなくたってなんらおかしくはありません。それに、仮に山里さんが好きでこの本を読む人でも、山里さんを主人公にした恋愛妄想だけで16編は、さすがに途中で飽きてしまいそうです。小説を書くのが相当上手いくないと最後まで読んでもらうのは難しいと思います。
 いくら「妄想」と銘打っているとは言え、誰かに読んでもらう事が前提なのですから、頭の良い山里さんがそれを客観視できない訳はありませんでした。反省です。

 そして、「全く恋愛ものじゃない妄想」が、しっかりお話として面白いのです。

 私が思うに、この本の様に「世間にイメージが浸透している人物やキャラクター」をモデルにした、いわゆる二次創作的な妄想が第三者にとっても面白いものになるかどうかは「いつもとは違うシチュエーションにいながら、モデルにした人の言動が、世間のその人に対するイメージとどれだけ近いか」が鍵なのではないかと思います。その点山里さんは、とても上手にモデルの女性の魅力や特徴を掴んでいらっしゃるのではないかと思いました。

 先ほど紹介した「天使の刃」の平手さんの例で言えば、まず舞台設定が欅坂46の楽曲のイメージとピッタリ合っているし、物語の中の平手さんのキャラクターも、少し陰がありつつも凛々しく健気に、そして、まっすぐに軍に立ち向かう姿が「不協和音」や「サイレントマジョリティー」を通して私が抱いているイメージの通りでした。(もっとも、平手さんをもっとよく知るファンの方々が読むと、また違う感想なのかもしれませんが…)
 なので、読んでいても「女性を妄想の中で自分の欲望のまま良いように動かしている」みたいな嫌な感じがせず、「わかるわかる!平手ちゃんこんなの似合う!」と思いながら、楽しく読むことができました。
 個人的にはむしろ、モデルの女性に合わせてお話を当て書きしている、という風に感じました。

 その他のお話でも、何人か存じ上げている女優さんやアイドルの方がいたのですが、人物像もその人のイメージ通りで、丁度そのモデルにした方が魅力的に見えるシチュエーションと役にはめた妄想で私は面白かったです。
 ストーリーの方もある程度パターンの様なものはあるものの、いろんなバリエーションのお話が出てきます。
 例えば、ドラクエやガラスの仮面といった既存の名作のパロディの様なお話や、世にも奇妙な物語の様なちょっと不思議で教訓めいたお話があったかと思えば、明るく楽しい学園物の様なお話もあり、種類が豊富で私は飽きずに読むことができました。
 山里さんはプロの小説家ではありませんし、今回は短編集でなおかつ面白さの肝は「実在の女優さんやアイドルの方をモデルにしている」と言う部分なので、物凄く心に残る名作!とか超スペクタクル!という感じではありません。しかし、多少ベタな展開も逆に言えば王道であり、誰もが楽しく読めるお話が集まっていると思います。
 あ、それと、収録されているお話はどれも爽やかかつピュアで、健全そのものでした。こんな注釈を付けるとかえって失礼になりそうですが、一応そこは…笑

・小説でありながら、山里亮太と言う「人物」を感じられる本。
 更にもう一つ注目して欲しいと思ったのが、各お話における山里さんの役回りです。先程も言いましたが、山里さんはこの短編集の幾つかのお話に自らを出演させています。そのお話の中で山里さんが自分にどんな役回りをさせているかに「山里さんが自分をどう認識しているか」が表れている気がして、興味深かったです。

 個人的には折角の妄想小説なので自分×ヒロインの恋愛ものにしたらいいんじゃないかとも思うのですが、むしろヒロインが幸せになれるように手助けするだけの役や、逆にヒロインを陥れようとして結局失敗し、ヒロインの心の清らかさを強調するだけの役など、なんでかどうもなかなか報われないというか、ヒロインと近づき切らない役が多い印象でした。
 山里さんが自らをこういった役回りにするのは「いくら妄想とはいえ、人の目に触れる作品でがっつり女性芸能人と自分の恋愛妄想を書くのはさすがに気が引けた。」と言うだけかもしれません。
 しかし私はそれだけじゃなく、度々周囲の人が言及する、山里さんの紳士的で騎士気質な部分とか、あれだけ努力家で仕事ができるのに、どうしても無くならない「自分のようなもんが…」と言う謎の自虐的な部分や自信の無さというか、そんなところが色濃く出ているんじゃないかと思いました。

 たりないふたりの企画の時からなのですが、山里さんはこういう妄想でなかなかヒロインと幸せになろうとしません。
 自分を犠牲にしてヒロインを幸せにする役回りばかりで、私としては、その部分だけちょっとなあ…。と。
 主人公がいつまでも報われ無い話って、あんまりおもしろくないな。もっとハッピーエンドだといいのにな。と、思っていました。

 で、話がちょっとずれるんですけど。最初にも言いましたが、山里さんは2019年に蒼井優さんとご結婚されました。皆さんご覧になったか分かりませんが、その結婚発表記者会見での山里さんの立ち振る舞いが、めっちゃかっこよかったんですよ。
 終始紳士的で優しくて…緊張しているのかあまりしゃべれない蒼井優さんの代わりにしっかり受け答えされて、凄く守ってるな~って感じがしましたし、かつ芸人さんらしく自虐や記者の方へのツッコミで笑いも入れて…もう芸人さんとしても男性としても素晴らしく、たまに入るしずちゃんとのやり取り含め本当に心温まる会見でした。
 その会見を見ながら私は、妄想の中ですらなかなか自分を幸せにできない山里さんが、現実でやっと、こうして幸せになる事ができたんだな~と思い、推しとまでは行かないまでも好意的な気持ちで山里さんを見ていた身としてなんだか感慨深かったです。
 本当に幸せになって欲しいお二人ですね。


 最後に、もう一つ触れておきたいのが、この本に収録されているいくつかのお話の中に、山里さんが普段から大切にしている考え方の様なものが込められている気がしたという事です。
 特に私がそう感じたのが、飯豊まりえさんがもでるの「その涙の温かさは。」と、最終話の元AKB48の渡辺麻友さんがモデルの「BAKU」です。
 これらのお話は、それぞれ「山里さんがどれだけ自分に厳しい人で、今までどれほどの数の悔しさや失敗を燃料にして努力してきたか」と言う部分、「山里さんにとってアイドルと言う存在がどんなものなのか、今までどんな気持ちで「芸人」と言う自分の夢に取り組んできたか」みたいな事がにじみ出ている気がして、ちょっとしんみりしながら読んでしまいました。
 実際にご本人も次のようにおっしゃっています。

 登場人物の言葉に自分の気持ちを代弁させすぎてしまって、自分の言葉に涙するなんてこともあった。それくらい脳内に広がる自分の妄想や思いを素直にぶつけた。本来の僕の姿が、僕がかかわるどんなものよりも出てしまっているのでは?とさえ思う。妄想小説というものの恐ろしさよ!
(「あのコの夢を見たんです。」 あとがき P.324 より引用)

 本当にそんな感じで、テレビやエッセイで日ごろ話している山里さんの考え方や性格が、自然とにじみ出ているなと思いました。
 この件に関しては実際に読んで感じ取って見ていただきたいので、私が多くを語るのはやめておこうと思います。それと、この2つは、かつて山里さんが書いた「天才はあきらめた」を読んでから読むと、より面白いんじゃないかと思います。

◆まとめ◆
 「女性芸能人をモデルに綴る短編妄想小説」としては、とても面白かったです!
 この本の面白さの肝は「実在の人物をモデルにした山里さんの妄想」という二次創作的な所にあると思うので、それを承知の上で読めば面白いと思います。モデルの女性も大切に扱っておられますし、色々な種類のお話が集まっているし、小難しい事は何もないので、サクサク楽しく読めると思います。
 逆にピース・又吉さんの「火花」の様な読み応えのある純文学を求めている人には、少し物足りないかも知れません。

 ただファンの方や、山里さんの事が好きで出ている番組をチェックしており、ある程度人となりを知っている人なら面白いと思うのですが、山里さんの事を好きになったばかりで、「山里さんの事をもっと深く知りたい」という理由で著書を読もうと思っている人であれば、「あのコの夢を見たんです。」よりは、自伝的小説である「天才はあきらめた」をおすすめします。

 逆に、山里さんの事をテレビで見かける程度にしか知らない人であれば、「読書はあまりしないし苦手だけど、一度一冊最後まで本を読んでみたい」という人にいいんじゃないかと思います。ページ数は多いですが、書いているのがテレビで見かけるお笑い芸人さんで、出てくる人物も芸能人女性なので親しみやすく、普通の小説よりはだいぶ取っつきやすいのではないでしょうか。

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 以上が「あのコの夢を見たんです。 著:山里亮太」の感想文となります。
 最後まで読んで下さってありがとうございました!
 面白かったよ~という方は、拍手、コメント、星による評価などしていただけると大変励みになりますので、よろしければお気軽にお願いいたします。コメントはあまり厳しい事は言わないでいただけるとありがたいです 笑

 ではでは、また次の感想文で~。

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